Jul 09, 2009

スポーツクラブの登録と運動

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アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズ氏がついにCEOを退任する。一度は潰れかかった“アメリカンドリーム”の象徴でもある会社を、その後わずか15年で世界の頂点まで導いたジョブズCEOの退任後、アップルは今日の勢いを保てるのか。林信行氏が分析する。

・突然の退任は病状の悪化が原因?

 日本時間の2011年8月25日早朝、アップルの共同創業者であるスティーブ・ジョブズ氏がCEOの座を退任すると発表した。21歳で創業し、25歳で億万長者、30歳で会社を追われたかと思うと、41歳でアップルに舞い戻ったジョブズ氏は、48歳にしてすい臓がんを発症、何度かの手術を受けて闘病を続けていた。

 56歳となった2011年、CEOの退任を発表したジョブズ氏は、“Letter from Steve Jobs”の中で、こう記している。

「アップルの取締役とコミュニティのみなさんへ

私はこれまでいつも言い続けてきた。もし、いずれ自分がアップルのCEOとしての職務や期待を果たせなくなる時が来たとしたら、必ず真っ先に私自身の口からそれを伝えると。残念ながらその日がやってきた。」

 このショッキングな書き出しの手紙が、アップルCEOとしてのスティーブ・ジョブズ氏から届く最後の手紙となった。突然の退任が健康上の理由によるものかは手紙の中で明かされていないが、ジョブズ氏は同じ手紙の中で「もし、取締役会が許せば会長として留任したい」と述べることで、まだこれから先もアップルに深く関わって行きたいという意欲を示している。

 ジョブズ氏の病状は本当にそれほど悪いのだろうか。同氏は2011年1月、病気療養に集中するとしてアップルの日常業務から離れることを宣言した。しかし、療養中も3月には「この機会を逃すわけにはいかなかった」とiPad 2の発表会を自らこなし、6月もWorldwide Developers Conference(WWDC 2011)で講演を行った。

 このWWDCの取材で筆者が渡米した際、ジョブズ氏が毎週必ず訪れる“ある店を”訪問したが、店員いわく週に2度ほどのペースで来店し続けており、「見た目より元気」であるとの証言を得ている。もしジョブズ氏の病状が悪化したのであれば、つい最近のことなのだろうか。そもそもジョブズ氏ほどの戦略家がただ病状が悪化したからという理由で性急に退任の発表をしたのだろうか。

 おそらくこの発表の裏にはある程度、考えられたタイミングがあると筆者は思う。

 そのタイミングとは、ジョブズ氏退任のショックも忘れさせるような、勢いのある新製品発表の準備が完了したということだ。すでにMac関連の情報サイトではiPhone 4の廉価版と、マルチキャリアに対応した新型iPhoneといった複数のiPhoneのウワサが流れており、米国でAT&T、Verizonに続く第3の通信キャリアとしてSprintが名乗りをあげる可能性もささやかれている。

 さらに同じタイミングで、これまでになかった、まったく新しいMacの新製品のウワサもある(筆者は新OS、Mac OS X Lionならではのマルチタッチ操作を生かした製品ではないかと予想している)。

 アップルの今年のクリスマス商戦に向けての準備はすでに万端で、後は新CEOとなるティム・クック氏が得意のオペレーションを実践するだけでほぼ“外すことのない”成功へのレールが敷かれており、これらの発表を行うことにより、多くの人々は一時的とはいえ、ジョブズ氏退任のニュースのことを忘れてくれる、というシナリオだ。iPod、iPhone、Macのラインアップが新しくなる空前の新製品発表の直前で退任するというのは、ある意味、練られた退任発表のタイミングと言えるのかもしれない(なお、一部の情報筋に寄れば東日本大震災で開発に遅れが出なければiPad 3も今回のタイミングで発表される予定となっていたという)。

 もっとも、退任発表のおおまかな時期は練られたものであっても、8月25日というタイミングは事故の可能性もある。

 ジョブズ氏の進退はアップルにとってあまりにも重要なニュースであるため、発表のタイミングにかんしてそれほど自由は与えられていないということだ。ジョブズ氏は、対外的にはアップルの“ただ1人の意思決定者”とみられることが多く、当然、同氏のCEO退任はアップルの株価にも大きな影響を与える(退任の発表から数時間で4.5%、約17ドルほど株価が下落している)。そのため、こうした重大発表は株式市場が長時間止まる金曜日の株式市場閉鎖後に行われることが多い(週末をニュースの冷却期間として利用するためだ)。

 それが週中のこのタイミングで発表となったというのは、アップルの意図に反して、このタイミングで発表せざるを得なくなった可能性がある。

 ジョブズ氏の退任が決まったにも関わらず、そのことを数日間隠したとなると、会社に取って不利な情報を隠ぺいし、株価を操作したと疑われる危険もある。退任の話が取締役会の中だけに止まっていれば、数日間情報を隠しておくことはわけがないが、もしジョブズ氏が退任の準備をしていることを外部の人間が嗅ぎ付けたとするなら、アップル的には疑いをなくすためにも即座に発表しなければならなくなる。もしかしたら、今回の発表タイミングは、ジョブズ氏の退任準備が誰かに気取られたためかもしれない。

●ジョブズ氏退任後のアップル

 ジョブズ氏の退任で、多くの人々にとってなんといっても気になるのがこの先のアップルは大丈夫か、という点だろう。

 答えはすぐには出てこない。ティム・クック氏には、過去に2度、ジョブズ氏に代わってCEOの代行をし、新製品発表などを成功させた実績もあり、アップル社内でも経営者としての人望は厚い。

 現在、アップルは時価総額でエクソンモービルに次ぐ世界2位の企業だ(8月には一時的にエクソンモービルを抜いた)。今やアップルの時価総額は、ユーロ圏のすべての大型銀行32行をすべてをあわせたよりも大きいという。

 その背景には、やはりなんといっても圧倒的なiPhoneの成功がある。アップルが、この6カ月間に販売したiPhoneの台数は3899万台で、これは2010年1年間(12カ月間)を通して日本国内で売れた携帯電話の総数3764万台(MM総研調べ)よりも多い。しかも、日本の3764万台/年はNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクそれぞれ数十機種ずつを出した合計の出荷台数だが、iPhoneはiPhone 4とまだ海外で人気が高い2年前の製品iPhone 3GS、たった2機種で達成した数字で、端末開発費に対しての利益率は圧倒的に高い。

 中にはiOSよりもAndroidのほうが勢いがあり、出荷シェアでもiPhoneを上回り始めた、と指摘する人がいる。しかし、それはあくまでプラットフォーム全体としてのシェアで、メーカー別の利益で見るとアップルが圧倒的に成功している。

 最近、洞察の深さで米国で最も注目されているブログの1つにasymco.comがある(ブログの筆者、Horace Dediu氏は最近では米FORTUNE誌などでもよく紹介されている)。同ブログが昨年秋に紹介した分析が面白い。アップルは出荷台数のシェアでは、世界で4%ほどで、32%のシェアを持つノキアなどに負けているが、世界の携帯端末メーカーの端末販売による利益でシェアを計り直すと、なんとアップルが50%のシェアを得ているというのだ(asymco: Last quarter Apple obtained 4% unit share, 22% sales value share and 50% of profit share)。

 これによれば、ノキアは安価な製品で薄利多売のビジネスを中心に手掛けているため台数は出るものの、利益にはつながっていないという。それ以外のAndroid端末を手掛けるグローバルメーカーも、結局は端末を乱造して“数打てば当たる”の商売をしているため、効率よく利益を生み出せていないのだ。

 読者の中には「それでもメーカー連合によるAndroidのほうが端末出荷台数の合計が大きいのでアプリケーション開発者に有利だ」という人がいるかもしれないが、Android端末はiPhoneに比べて圧倒的にアプリケーションのダウンロード数が少なく、特に有料アプリケーションはなかなか購入されないことがいくつかの調査で明らかになってきている(その代わりWebの利用率は高い)。世の中にiPhoneアプリケーション長者は大勢誕生したが、Androidアプリケーション長者はほとんどいないのが現状で、その点でもiPhoneは強い。

 それではiPadはというと、こちらも安泰だ。iPadの出荷台数は発表以来、依然として伸び続ける一方、同じカテゴリに分類されるタブレット型製品を投入していたヒューレット・パッカードが最近になって市場撤退を表明した。iPadは50%以上のマーケットシェアを誇っており、ついにはNetbookで成功を収めていたAcerのビジネスにも大きなダメージを与えるに至っている。

 また、Macでも「MacBook Air」の発売以降、人気が止まらず、品薄の13インチモデルついては、一部でプレミア価格付きで売られている状況だ。実際、Mac OS X Lionがリリースされた7月はMacの売り上げが26%も向上した。

 ここまで絶好調となると、逆にアップルを失速させるのはなかなか難しい。もしCEO不在のまま何もしなかったとしても、後1〜2年はそれほど大きな影響は出ないはずだ。ましてや新CEOのティム・クック氏は、アップルを現在の地位に持ってくる戦略の要(かなめ)を果たして来た優秀な人物であり、そう簡単に失敗をする人物ではない。

 ただし、将来を展望したときはどうだろうか。この点では、経営の手腕ではなく、アップルがティム・クック氏の時代になっても、イノベーションを起こし続けることができるのかどうかが重要になってくる。

●2013年が運命の分かれ道

 2011年にアップルワールドワイドマーケティング担当上級副社長のフィル・シラー氏にインタビューしたとき、その場では否定されたものの、筆者はアップルという会社が3年おきに体質変化を起こしているという持論を今でも信じている。

 同社はスティーブ・ジョブズ氏がトップに復帰した1997年から毎年大きな発表をし続けているが、その内容を「製品として革新的な発表」と「その後、数年間の戦略に繋がる新機軸」と分けて分析すると、後者はほぼ3年周期で起きていることに気づかされる。

 具体的に見ていこう。1998年は初代iMacが発表されMac復活へののろしがあがった。2001年はその後10年間に渡る戦略の核となる「デジタルライフスタイル/デジタルハブ」構想が発表され、アップル直営店がオープンし、iPodが発表された。

 ジョブズ氏がすい臓がんの手術を受けた2004年だけはイレギュラーで新機軸の発表はないが、その1年前、アップルはコンテンツ事業への第一歩としてiTunes Music Storeを立ち上げている(現在、アップルは世界最大の音楽販売会社だ)。

 2007年は「電話を再発明」した初代iPhoneが発表され、社名が「アップルコンピュータ」から「アップル」に変わった。そして2010年にはiPadが登場している。

 アップル自身では計算していなくても、なんとなく同社のバイオリズム的に、新機軸を打ち出しては2年かけてそれを浸透させる、というのが馴染んでいるように思う。となると、次の新機軸が打ち出されるのは2年後の2013年ごろになるはずだ。

 もしかしたら、すでにその芽はスティーブ・ジョブズ氏によって撒かれた後かもしれないが、これをジョブズ氏と同じだけの完璧主義を持って製品としてブラシュアップさせ、ジョブズ氏同様に市場投入時に大きな話題を生み出せるかが大きな勝負どころになりそうだ。

 ジョブズ氏がアップルで果たした役割は主に以下の4つがある。

・1)タフな交渉者
・2)究極の目利き、兼マエストロ
・3)製品の最高のプレゼンター
・4)アップルの求心力

 1については、アップルがライフスタイルのブランドとして、音楽や通信、放送など我々の日常生活を支えるインフラと切っても切れないサービスを提供しており、音楽業界や携帯通信キャリア、テレビ放送局といった企業とタフな交渉をすることが日常茶飯事となっている。ジョブズ氏は自らプライベートジェット機でこうした交渉に乗りつけ、よい条件を引き出してきた。

 2は、社員から上がってくる製品戦略を吟味し、1000の提案にNOという一方で、1つの選りすぐった提案にGOサインを出し、それにアイデアのトッピングや味付けについてのアドバイスを行ってきた。

 3は、突然行われる新製品発表会に世界の目を引き付けさせ、素晴らしいプレゼンテーション術で参加者を魅了し、翌朝には主要な新聞やテレビまでもが話題のニュースとして取り上げるように仕向けている。

 4は例えば(アップルにはミッションステートメントのようなものはないが)、製品企画を出すときにしても社員一人一人が「ジョブズ氏ならこの製品を認めるか」といったことを判断基準にして提案を行っている。つまり、ジョブズ氏は企業としての価値観の基準になっている。それと同時に伝説の創業者、スティーブ・ジョブズ氏がいるからこそアップルで働こうとしている社員も多い。

 これら4つのうち、1と2については、アップル社内にも同様の能力を発揮できる優秀な人材がいる。ただし、2について時には冷徹な決定を下す「decision maker」としてのジョブズ氏の手腕を、ティム・クック氏が遂行できるかどうかは大きな挑戦となるかもしれない。クック氏は、冷徹な決断者としてはそれなりの評価を得ているが、アップルの創業者というわけではなく、いざという時の判断のよりどころは「ジョブズ氏だったらどうしたか」という基準に頼ることになりそうだ。

 実際、アップルは2011年に入ってから、ジョブズ氏のこれまでの意思決定の基準の文章化に取り組んできたことが米FORTUNE誌の記事で明らかになっている。この秋には米国でジョブズ氏が認める公式の伝記も発売される。

 だがその一方で、前任者の価値基準に沿うことは、大胆な決断をできなくする恐れもある。自分の代で会社を落ち込ませるわけにはいかないという、多くの日本メーカーのトップが抱えている問題をクック氏が克服して、果敢にリスクをとって、新しいチャレンジを続けられるのかどうか――「イノベーションを続けることで苦境を乗り越える」としてきたアップルの“魂”を守れるかが勝負どころだ。

 3のプレゼンテーションについても問題だが、前回の病気療養時にはフィル・シラー氏が立派に新製品発表の大役を果たした。また、iPhone事業を率いるスコット・フォースタール氏も名プレゼンターとして評判が高い。

 より深刻な問題は、4の求心力の部分だろう。事実、ジョブズ氏が病気療養に入ってからアップルを離れた重役も多い。自分の提案に対して「No」といわれても、相手がジョブズ氏ならば納得した社員たちが、ジョブズ氏以外に同じ「No」をつきつけられた時に堪えられるのか、といった小さな積み重ねも問題になる。

 もっとも、今回の発表でジョブズ氏はCEOの座は退任したものの、会長の座には留任することを希望している。そういう意味では、ジョブズ氏の求心力は、今すぐ完全に消えることはないのかもしれない。

 どこか不安のつきまとうジョブズ氏のCEO退任だが、今や大成功を収めているアップルは、間違った戦略を続け失速するにしてもおそらく数年の時間がかかる。その間、これまでのジョブズ氏を脇で支えてきた有能な経営陣が、他に類を見ない膨大なキャッシュを抱えたまま何もいい手を打てないまま終わるというのはなかなか考えにくい。そういった意味からも、アップルは今後、当面は安泰だろう。

 そもそも今日、 iPodやiPhone、iPadといったアップル製品で主流となっているユーザーは、すでにマニアックなアーリーアダプタ層ではなく、アップルの経営者が誰であるかなどに関心を持たない一般コンシューマーにシフトしている。そうした人々が今回の退任劇によって製品購入の判断を左右されることはほとんどなさそうだ。

 退任を表明した手紙の中で、ジョブズ氏はこう書いている。

「私はアップルの明るさの頂点も、革新性の頂点も、まだこれから先にやってくるものだと信じている。そして、それを今の新しい立場で眺め、貢献できることを期待している」

 世の中が薄利多売なベージュの箱形PC一色になっていく中、デザイン重視のPCを投入してトレンドを生み出し、PCを再び楽しいものとして蘇らせ、いつでもどこでも音楽がそばにあることの楽しさを世に広めたアップル。そのアップルがiPhoneとiPadの2つのデバイスで切り開いた新しい時代は、まだ始まったばかりだ。

 これまで40年間、IT業界をエキサイティングな場所にし続けてきたジョブズ氏に感謝する一方で、アップルがそのDNAを引き継ぎ、ジョブズの退任後も、世界中をワクワクさせるイノベーションを続けてくれることを願って止まない。

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